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『散歩する侵略者』 天の敵
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小川絵梨子

1978年生まれ。東京都出身。
アクターズスタジオ大学院、リンカーンセンター演出家研修所を経て、
woken' glacier theatre company をニューヨークで創立、所属演出家として活動する。
2010 年、東京で『今は亡きヘンリー・モス』(サム・シェパード作)を翻訳・演出、
同作で第 3 回小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞する。
2011 年より拠点を東京に移し、
レジナルド・ローズ作『十二人の怒れる男』を脚色・翻案・演出した『12 人』、
『夜の来訪者』(J.B.プリーストリー作)の演出、
同性愛者の心理を緻密に表現した『プライド』(アレクシ・ケイ・キャンベル作)の演出で、
2012 年、第 19 回読売演劇大賞・杉村春子賞を受賞する。


小川絵梨子×前川知大 2012.04.20

新作『ミッション』は、5月11日より開幕しました。
外部から演出家を迎えるイキウメ初の試み。
このページでは、立ち稽古が始まって 1 週間め、演出家がギアを入れる直前の、
「劇作家と演出家へのインタビュー」を掲載します。

(取材・構成 尾上そら)

過剰な責任の取り合いがある稽古場

――『ミッション』の創作過程では、イキウメにとって新しい試みが行われています。
小川さんを演出として迎えたこと、戯曲の立ち上げからワーク・イン・プログレス(以下 WIP。創作の過程を公開し、外部 の視点などを取り入れつつワークショップを重ねて作品を発展させていくこと。→詳しくは前川のブログ)を行ったことなど、前川さんの作品に対する意識やそこに 向き合うスタンスなどは、最初のアイデア段階からいつもと違ったのでしょうか?

前川   WIP では、想像以上の成果が上がったと思います。
劇団員とオーディションからの参加組、それに公募で集まった戯曲作りのブレイン・チーム(イキウメ文芸部)が垣根なくディスカッションすることができ、作品の立ち上げから共有できたことが大きかったです。
劇作家に専念したからといって感覚的に大きく変わったところがあるわけではなくて……ただ小川さんに演出してもらえるので、「稽古場でどうにかしてください」的な構成やシーンはザクザク書かせてもらいました。
「どうすんだよコレ」と困るんじゃないかなと思いつつも(笑)。
今までも細かく速い展開が要求される戯曲を書いていたけれど、今回は一段とそういう要素が多いです。
あと、小川さんの演出作品を色々拝見するなかでも「コレはやってないだろう」というような構成を敢えてぶつけてみたかったんですよね。
別に意地悪してるワケじゃなく、純粋に小川さんが僕のホンをどう料理してくれるかを見たかったんです。

小川   意地悪だとは思ってません!(笑)。むしろ嬉しいですよ、そういう期待をしていただけるのは。

前川   それに、戯曲の構成に従って欲しいわけではなくて、小川さん自身も「(劇団での創り方やイキウメらしさの ようなものを)良い意味で壊したい」と言ってくれたじゃないですか。
だから、無理な感じで書いてもいいかな、と思って。

――確かに複数場面が同時に進行したり、シーンの移行が明確に区切られていない戯曲ですよね。
こういう戯曲を提示され、演出家としてどう感じたのでしょう?

小川   作家と共に戯曲の立ち上げから共有する芝居づくりは私にとっても初めての体験です。
最初に戯曲をいただいたときに感じたのは……贅沢感なんですよ。
私は『ミッション』という戯曲を最初に読む演出家で、その産声を今聞いているんだと思ったし、それはこれまで経験 してきた翻訳戯曲では得難いことだったので。

前川   僕も違う意味での贅沢感を感じています。
普段から戯曲と、演出家としての僕のやりたいことに対して俳優やスタッフさん、みんなが集まり・乗ってくれている とわかっていたつもりなんだけど、作家だけの立場で稽古場に居ると、余計にみんなに感謝する気持ちが湧いて来まし た。
「自分の書いた本に、こんなに必死に取り組んでくれてるんだ! なんて贅沢なんだろう」と。
これはいつものように、本を書き上げてすぐ演出をするということでなく、稽古と少し離れた立場に立ってみたので、 分かった感覚だと思います。そして、演出家は俳優からスタッフまで、色々な人と時に共闘し、時には対立することもある。
そういうことを今回、認識し直せたと思いますね。
今回のはプロデュース公演に作家として作品を提供するのとは、根本的に違うと思いました。

小川   「劇団」という場の違いは大きいですね。
私も普段は一回ずつメンバーの違うプロデュース公演に参加することが圧倒的に多いので、イキウメさんに飛び込ませ てもらった今回の経験はとても楽しいし、これもまた贅沢に感じていることのひとつです。
作家とだけでなく劇団ともコラボレーションできるうえ、作品の方向性や、創作過程で何を一番大事にするか、という ようなことにブレがない。
創作に集中しやすい環境ですよ。集団がはじめから、前川さんとその作品を中心に“ギュッ”と結束しているから、俳優 同士が結束するまでの時間が必要ないんです。
まぁ“ギュッ”となってるからこそ前川さんに「今はお休みしててください!」というときもあるんですが(笑)。
あと、今回は劇団員だけでなく、オーディションを経て参加している俳優が混ざっているのも良いバランス。今は劇団 の創り方・進め方を「上手く使う部分」と「変えていく部分」、そのバランスを探っている感じです。俳優の役へのア プローチなどは見えて来ているので、演出家としてそれをどう邪魔してやろうか、とか考えているんですけど(笑)。

前川   「お前らが今まで使ってきたモノは通用しないゾ!」と(笑)。

小川   そうそう、どうやってイヤな奴になってやろうか考えてる(笑)。 でも、一番戸惑っているのは劇団の俳優さんたちですよね。
作・演出家がいるレギュラーの創り方でずっとやってきたのに、違う人間が来たことによる緊張、「頑張らなきゃ」と いう気負い、私が何をやり出すか見えない不安とかいっぱいあるはずだから。
でも、そのへんの理由による距離がもっと大きくあるかと思っていたら、意外なほどなかったんです。
皆さん私の言うことをとても素直に聞いたり、話したりしてくださって想像していたよりも楽だな、と。
イキウメの皆さんが本当に舞台を好きで、前川さんの作品が好きだからでしょう。
稽古中に一度、「一緒にリスクを背負ってください」と言ったときも「喜んで!」的な反応を返してくれたのは嬉しか ったです。
だからこの先は、もっともっと「私の仕事」にしていかなきゃと思っています。
稽古をしながらも日々「そうだココは劇団だったんだ」とか、「私が来たからできることってなんだろう」とか考えて いるんですよ。
ただ、これまでのイキウメのカラーとわざと違うことをしよう、というのではなく、目の前の戯曲と俳優に触発された 演出家の私が「やりたい!」と思ったことをまっとうするのが、自分の仕事だと思っています。

前川   劇団にはそれぞれカラーがありますから、難しいところですよね。
そこに合わせるだけじゃ外から呼ばれた意味がないし、といって違う方向性だけ追いかけて選択肢を狭めるのもおかし な話だし。小川さん、ほんとタイヘンだなって思います(笑)。

小川   (笑)なんですかソレ、他人事みたいに。でも本当に思っていたほど大変じゃないですよ。
その点では WIP の時間が、やはり有難かったかな。稽古前から作品に向かうひとつのベクトルを共有できていたから。

前川   創作より、集団とか劇団であることに向いてしまう人がいないのは良かったんじゃないですか。

小川   そうそう、まったく居ませんよね、そういう人。

前川   もともと劇団として、そういう固定観念に縛られないようにしてきたつもりなんですが、小川さんの言うとお り WIP の果たした役割は大きいと思います。
僕がただ書き上げた台本を持ってきて、そこに小川さんが入ってということであれば、状況は違ったでしょうね。

小川   全員が同じ土俵に上がることから始められたのは大きいでしょう。

前川   考えてみると『ミッション』という作品を創るためのミッションが、2 か月前から始まっていたんだから、作 品に対する姿勢も変わって当然ですね。
これは「責任感に関する作品」でもあるから、その符合がまた良い感じで。
事あるごとに全員で「責任取って行こー!」みたいな(笑)、
過剰な責任の取り合いがあるくらいで良いんじゃないですか(笑)。

「演出家の仕事」とは何なのか?

――前川さんの戯曲を演出するため、小川さんが普段は使わないチャンネルや感覚を使っている、というようなことはあるのでしょうか?

小川   具体的にどこを、というのとは違いますが、「作家の魂」に直接触れながら演出できることが、これまでと大 きく違う点だと思っています。
翻訳戯曲の場合、読んで解釈したうえで、自分なりのストーリーを構築していくんです。
その基本的なやり方は今回も変わりませんが、稽古場に前川さんという生身の作家がいて、コミュニケーションを取る ことができる。
もちろん、作家の意見をただ「はいはい」と受け入れるだけならば演出家の私は要らないけれど(笑)、お互いに意見 を交わし、確かめ合いながらできる創作は貴重で、その交感に対するチャンネルは普段使っていないものです。
戯曲を読んで私が最初にする作業は、作家の意図を汲み取ること。
その意図のどこを色濃く、どこを淡くするか、どこを引っ掛けて立ち上げるか、作品に対して自分は何を欲しているか を見極めていくとき、「作家の魂」に触れられるのはとても豊かな環境だと思います。

前川   作家の魂?

小川   そう、翻訳戯曲の場合は作家に会えないどころか死んでいる場合も多いし。 知識では分かっていても、生身を感じることはできません。
「きっとサム・シェパードが書きたかったのはこういうことだ。これを汲み取らなきゃ」と思いつつも、不安感はどこ かに残るんですよ。私は作家の意図が演出する上で最重要だと思っていて、再構築や解体することに今は関心がないんです。
だから、作家との魂の交流ができることがすごく嬉しいです。

前川   僕は演出と同時に劇作もやっていますので、小川さんの戯曲に対する考え方には両手を上げて賛成。
戯曲の魅力や作家の伝えたいことを確実に伝え、そのうえに演出家の見方や切り取り方、伝え方が乗っているのが理想 的だと思います。
ギリシャ劇やシェイクスピアのような大古典はまた、少し違うのかも知れませんけれど。

小川   ああいう長く、数多く上演し続けられているものは、確かにちょっと違う感覚ですね。

前川   原作はもはや一般教養として知っていることを前提に、解体してナンボ的な評価があるジャンルでしょ。

小川   それに韻を踏んだ台詞など「現代人にちゃんと伝わるのか?」というような部分は、解体や再構築が必要な場 合もあるでしょうしね。

前川   本の段階で、作家は自分の思っていることをいかに誤解なく、同時に誤解の可能性も残しつつ書く。
それは自分の面白いと思っていることを、他者に同じように面白いと思って欲しいからなんだけど、演出家も同じよう に伝えるための工夫をします。
その上でさらに自分独自の視点や、演出家としてのエゴを乗せてやろうみたいな意識が働くことはありますか?

小川   あまりないかな。現場で俳優が持ってきたアイデアが良くて採用とか、俳優をより輝かせるために有効だと思 うことをやるとかはありますけど。
「私の演出を、私の新しい解釈を見せるの!」みたいなことに、今はあまり興味がないんですよ。
例えるなら自分の仕事は「デッサン」。
ピカソの抽象画、「ゲルニカ」なんかカッコイイと思うけれど、あれを描くためには高度なデッサン力が絶対必要だと 思います。
もちろん演出する時点で自分の視点は当然加わるけれど、そのためにも目の前の戯曲をとことん理解し、真価を認め、 味わう、というデッサンするような作業は欠かせないんですよね。
演出は元々ワガママな職域だから、エゴをねじ込もうとしたらいくらでも出来る。
でも今はそれをしたくない。
俳優とテキストを信じて、必要以上に説明せず、奇をてらわず真摯にいることが、私の好きな演出のベクトルなんです。

前川   僕は人が書いた戯曲を演出したことはほとんどないけれど、小説原作の戯曲化の経験はあって。その時のこと を思い出してみると、結構自分の面白いと思うことをねじ込んだ部分もあったな。

小川   求められることは人によって違うから。私はこの件に関しては今はストイックでクソ真面目だけど、一年後に は「解体? バリバリやっちゃうよ!」と言ってるかも知れないし(笑)。

前川   僕の演出は使っている脳みそこそ違うけれど、台本を書く前の思考の延長線上にある作業なんですよね。
だから、自分の劇団に書いた本を、小川さんという演出家が演出する過程を見ることで、僕が次に演出する時に考える ことが変わるような気が今してます。それは小川さんの方法論を取り入れるということではないんだけど……今、稽古を傍から見ながら「演出家の仕事って なんだろう?」と改めて考えている自分がいて。

小川   あまり客観的に見る機会がないですからね、人の演出を。

前川   稽古するために戯曲のパートを分ける、その分け方ひとつとっても「自分ならやらない」ってことが色々あっ て、いちいち「なるほどな」と思うんですよ。

小川   そう言ってもらえるのは嬉しいですね。

前川   戯曲が尊重されている、という大前提で作業が進んでいるから安心して見ていられるし。
あと、小川さんを見ていると、俳優に対する配慮をすごく大事にしている感じがする。
「この一週間一緒に稽古して良い時間が過ごせた」とか、サラっと言うじゃない? アレ、言ってみてーと思った (笑)。

小川   思いつきを言ってる感もありますが(笑)。

前川   いやいや、あれは大事ですよ。

小川   稽古場の空気を気にするのは、それが良い作品を創るために不可欠な要素だから。
誰かがイヤな思いをしている現場から、良い作品は生まれないと思うんですよ。
ただ、だからこそ今の自分には劇団は持てないなと思う。
一回ごとの創作に「ヨッシャー!」と集中したほうが向いている気がして。
その代わり、作品のケツは絶対に自分で持つし、依頼された仕事には必ず成果を上げないと、と思ってますよ。
これも、将来的には変わることかも知れませんけれど。

前川   自分で劇団をやっているなかでも、「なぜ劇団なのか」と考えたことは何度もあるんですよ。
もちろんスタートは「自分たちのやりたい芝居をやる集団」だけど。
今年イキウメは 10 年目ですが、途中で、ちょっとよくわからない状況になったことがあります。
年 2 回公演をする、ということがルーティンで芝居を創ってるような気がして。
その時は、劇団員の入れ替わりがあったり、僕が外の仕事をやるようになったりがあって、劇団の意図が薄まっていくように感じたんですよ。
で、「劇団だから出来る創り方をもっと突き詰めよう」と、皆でディスカッションをしたり、演技への要求だけじゃな く、芝居の創り方全体からコミットしてもらおうという要求をどんどん強めていった。
今、メンバーは作品をどう立ち上げていくかに、意識が強くなってると思います。

小川   それはすっごく感じます。

前川   そしてそれは劇団の良さのひとつだと思う反面で、今回は小川さんが演出するうえで、その意識が邪魔になる んじゃないか、とも思ったんだけど。

小川   それは両方かも知れない。表現するまでの立ち上がりがすごく早い部分と、既存のやり方に縛られる部分の両方が見ていてわかるから。
皆さんの意識の高さに私が助けられることも多いけれど、そこは最初に言ったようにイヤな奴になって(笑)、俳優を 縛っているものをむしり取ることも必要なんだと思う。
もう少し全体が見えて、ドライヴしてきたら、一人一人の役の奥、もっとエグいところへ意識をスイッチしていけるよ うに持っていこうと思ってます。

前川   そうそう、劇団員はつい作品全体の調和を取る役割に回ろうとする。
でも、もっともっと自分の役を考えることにウェイトを置くべきところもあるんだよね。

小川   今はまだ転換なんかを皆で一生懸命考えてる段階だから、一気に両方は無理だと思うけれど。
作品を成立させることだけが創作じゃない。
だからある程度作品の造形が見えたら、「自意識をもう少し消して」とか「もっと相手の言葉を聞いてみよう」とか、
すごく微妙なことをやってもらおうと思っています。
私が俳優に求めたいのは、「役を演じる」だけじゃなく「役になっていく」というニュアンスのことだから。

――この作品は色々な機会になりそうですね。イキウメがどういう集団なのか、前川知大の作家性がどういうものか。
劇団のカラーを一度剥がし、その本質を見せるチャンスのように思えます。

前川   そうですね。
稽古を見ていて、俳優や自分の戯曲に対して見えるものが異常に新鮮なんです。
自分が書いた台本だし、シーンを重ねていく感じとかも今回が特別な構成ではない。
何かスゴイことが起きている訳ではないと思うけれど、でも新鮮で面白い。
何か違う見え方が既にあるように思える。
それは、普段の僕の演出では引き出せないものが、現場にあるからなんですよね、きっと。

小川   ガンバります!

(2012.4.20 森下スタジオにて)

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