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『片鱗』稽古場から

前川知大・手塚とおる・浜田信也

撮影:神藤 剛

■取材・文:安東克人

安東と申します。
2010年の『図書館的人生Vol.3』まで、
イキウメでは音楽を作っていました。
最近、『獣の柱』『地下室の手記』でTwitterに上がっている感想を、
個人的にTogetterへまとめていた所、
劇団から『片鱗』についてのプロダクションノートを作成してくれませんか、
と声が掛かりました。
非常に興味があり、嬉しいお話でしたのでやってみます。

ということで、これから何回かに分けて、
制作中の稽古場から、レポートをお届けいたします。
よろしくお願いします。

01

■今回は「ホラー」とありましたので、稽古場はシリアスな雰囲気になっているのかな、と思ってましたが。

前川 全然 (笑) 。笑えますよー。
なんかよくわからないことが起きたときの人間の処理の仕方って、ついつい笑ってしまう。
ビックリすると笑っちゃうっていう。
ホラーって、ころっと笑いに転じてしまう所がありますから。
助けを呼んだら一番怪しんでる人が来ちゃってどうしよう、みたいな。
ちょっとコントみたいですけど。
出口を塞がれちゃった感じとか、そういう笑っちゃうような、普通にあることが怖いかな、と思って。
どう受け取っても自由だし。
無理に怖いほうに持っていって、窮屈なものにならないように気をつけています。
今のところは。

■『片鱗』はどのような物語から始まるのですか。

前川 ある住宅地、小さなコミュニティに父と娘、2人暮らしの親子がやって来て。
彼らの目的では無いんだけれども、その地域が崩壊してしまうっていう……まあ住めなくなるっていうような話です。
今までの作品もホラーといえばそうかもしれない、というようなところはありましたけれども。
ホラーと意識して作った事は無いんです。
単純にホラーって「ジャンルもの」じゃないですか。
映画でも小説でも様式が決まっている、ジャンルとしてのホラーがある。
演劇でジャンルもの的なホラーっていうと……。

手塚 歌舞伎の幽霊ものとか怪談とか、お化け屋敷みたいなものですかね。
あと能とか。

前川 あ、そうですね、お化け屋敷。
たいていのジャンルもの (のホラー) って (怖がらせる) 意図が見え見えでOKという約束事の中でやるものだと思います。
怖がらせに来ているし、観ているこっちも怖がってるから。
怖いんですけれども、ある種あれは安全地帯から観ているよね。
最初からこっちは意図が解ってるわけだから。
それとは別のホラーもあると思ってて。
最後までよく解らないもの、という怖さ。
『何これ訳分かんない!』っていうのって、メチャメチャ怖かったりするじゃないですか。
安部公房の小説とか。

■今までのイキウメがやって来た、例えば『太陽』や『獣の柱』なども怖かったです。
ところで今回、公演のプレスリリースには、前川さんが作品を作る上で定義していることが書かれていました。
そこには「SFは不可思議な現象を科学とその延長線上の言葉で、説明と解決を試みる物語。
ホラーはその現象を分からないまま当事者の体験を描く物語だと思う」とありましたが。

前川 SFは理性で語るし、ホラーは感情で語る、っていう風に考えています。
『太陽』はSF的だと思いますし、『獣の柱』は、あそこにでてきた「柱」が一体何かっていうのが最後までよく解らない、という点においてはホラーだと思っています。
語り口はSFだけど、ちょっとホラーっぽい、みたいな。
今回の『片鱗』は、何が起きているのか全く解らないまま進んで行くっていうことでは、それに近いかも知れませんね。
今は稽古場で色々と試しています。

■どんな事を試しているのでしょうか。

前川 色々とグルグルしながら作る (笑) 。

一番身近な表現は映画のホラーですが、それを演劇にどう翻訳出来るか、とか。
演劇ならどういう表現があるのか。
作り物の見え見えの怖さっていうのを全面的に主張しても、それは共有できるものなのか。
その前提でやる白々しさが浮上してきたら、それを自分たちのやり方としてどう処理するか。
不条理を押し出していった方がいいのか、とか。
あるいは、俳優の身体にどれくらい負荷をかけられるか、というような、舞台美術の構造と人間の動き方で、生々しさみたいなものを引き出せるか、とか。

そういうことを一日中、試しています。
ちょっともう、こういう話を始めますと、今も稽古の続きに入りたいくらいなんですけれども (笑) 。


02




■舞台の場所、町の名前は今回も「金輪町」なのですね。
これは、他の作品に出てくる「金輪町」と同じ町なのでしょうか。

前川 いや、全然。
町の名前が出てくると全部「金輪町」にしてしまっているだけなんですけれども。
そこで色々なことが起きる。
人の名前もそうだし、色々な名前を作るよりは「金輪町」っていう町を一個作って、なんかそこで起きていることを箱庭の実験みたいなイメージで。
都心から離れた郊外、というイメージです。

人物の名前も、作品をまたいで引き続き使うものもあったり、そうじゃなかったり。
繋がってはいないけれども、こういう行動をする人物とか、こんなイメージを持つ人間とか、なんとなくあって。
それは俳優に説明しづらいんですが。

浜田 わかっておりますよ (笑) 。

前川 この名前しかないなという時、使っちゃうんですよね。
何回も出てくるのは気に入っている名前ですね。
名前って芝居の中でいっぱい呼ばれるから。
気持ちのいい音とそうじゃないのとあるじゃないですか。
響き方が大事です。

■今回、手塚さんが参加されたことについて、うかがってみたいです。
劇団に客演するのは久しぶりということですが。

手塚 いつもはプロデュース公演だったり。誰かの演出する舞台だったり。。
歌舞伎の人も居るし、ミュージカルの人も、テレビの人も居るっていう風な、個人個人それぞれが違うところから集まっているような舞台。
そこで合意して作る、割と日常の共通認識に合わすようなお芝居っていうんですかね。
そういう空域の芝居をメインにやっています。

僕らが劇団でやっていた頃の劇団って、結構メチャクチャで。
劇団の常識がすべての常識になるっていう、そういうものが劇団でした。
極端な話、主宰者が「信号は赤で渡るんだ」って言ったら劇団員は赤で渡る。
で、轢かれるっていうね (笑) 。

イキウメも前川さんの思考を皆さんで「これはどういうことなんだろう」って一生懸命、探る。
そういうことに集中している集団じゃないですか。| 今回参加したのは、前川さんの頭の中をどう覗いていくかという作業を、それに慣れてる人達とちょっと一緒にやってみたいなと思ったからですね。
ホラー云々のことに関しても、怖いっていう感覚は個人個人で違うわけじゃないですか。
そこを合わせていくっていうのは本当に難しくて。
で、それは笑いも全く一緒なんですけどね。

僕は笑いの集団で、ずっとやってきたんで、それを凄く実感しているんです。
「笑いって何だろ」って考えていくと、例えば「人が転ぶとみんな笑うよね」ってことが、「じゃあ転びそうになって転ばなかったら笑うのか」とか、そういうことをどんどんやっていくうちに、「普通に通り過ぎようか」っていうような、これはもう笑いじゃないんじゃないかっていうようなことに繋がっていく。

突き詰めて何が面白いのかっていうと、みんなが笑わないことが面白いっていう、物凄くひねくれた形にどんどんなっていくんです (笑) 。
で、まあ、それの何が楽しかったのかと言うと、笑いって何だろっていうことをみんなで考えていく、そこに集中していく過程が楽しかったわけです。




始まる前に前川さんと一回だけ喫茶店で話をした時、「ホラーです」と聞いて。
「おお」って思った。「メイクすんのか」って (笑) 。
これはちょっと面白いなって思いました。
前川さんも「ホラーって何だろ」って絶対考えるし、劇団の人達も考えるし。
そこに参加するっていうことがちょっと面白いなって。

結果多分「これホラーじゃないよな」ってことにどんどんなってくってのは必然的で。
ということは、どこに落としどころを持っていくのか。
それが前川さんのセンスだったりする。
本を読み取るっていうことよりも、僕はその思考を読み取るってことに興味がありますね。

03




手塚 「役」ってひとつの思考じゃないですか。
本に書かれてあることだから、それになろうって言ったって絶対無理で。
「役になりきった!」なんて人は、それはまあ……どうかしているわけでして (笑) 。

前川・浜田 (笑) 。

手塚 その思考から何を行動するかっていう、そのチョイスのことですよね。
僕の考えるチョイスと、前川さんが考えているチョイスと、お客さんが怖がったり嫌がったりするそのチョイスとが、一体どう繋がるのか。

前川 稽古場って、みんなの脳をジャックで繋いで、一緒にガーっと思考を読み解こうとするような場なので、いつもの僕らと、経験も趣味趣向も違う手塚さんにそれを繋ぐ面白さってのは、それがどれだけ稽古場に波風が立つかっていうことでもある。
抵抗は絶対生まれるけれども、そういうところでいつもと違う自分たちの表現がゴロっと出て来たらいいな、と。

浜田 手塚さんは「ここが分からない」とか、「これが気持ち悪い」「こういうのはどうだろう」って、アイディアを出してくれて、かき回してくれている感じっていうのがあって。
そうすると、それに対して僕らは右往左往するっていう時間が持てる。
目的地までの最短距離じゃなくて、無駄かもしれないことがいっぱい出来るっていうのは、ありがたい部分で。

今まで行ったことのないところに頑張って行ってみたい。
ただ、今はそれが充満している感じで。
実際、「これどうすんだ?」って。若干不安になります。

前川・手塚 ハハハ (笑) 。

手塚 僕が劇団に呼ばれた意味ってのは、僕自身には分からないですけれども。
でも、そういうことを持ち込むのは面白いと思っていて。
前川さんが「判らない」って言うんであれば、まあその不安は不安で取っておいて。
明確なものから整理して行きましょう、と。

で、その不安っていう要素を取り除こうとする行為をしてしまうと、演劇って一気に死んでしまう可能性が高いんじゃないかと思うんですよ。




04




手塚 物語上でも死んだり生きたりしますけれども。
舞台の上に俳優が袖から出てきて、台詞を喋り、また袖にはけるという状態は、「生まれて死んでいく」ということなのかな、と。
で、次の日にまた生まれて、また死んで行く。

それを毎日見せて行くのが僕ら役者の役割ですよね。
で、それを繰り返していくためには、俳優が不安なまま、何かを固定しないで立っているというのが、まず大事なのかなと思う。

浜田 明日のお客さんのために、また生まれて来る……。

手塚 不安って死ぬまで僕らに付きまとうことで。
それを受け入れていく、ということが多分、生きていく、ということで。
それが劇の中で「無い」というのは絶対不自然ですよね。

劇の中に僕らが立っているという状態は、あらゆる関係の中に漂っている不安を、
登場人物達が受け入れた上で、でも見せないように生きているっていう。
僕らがそれをどう処理したり、受け入れたりしているのか。
多分それが一番面白いところだと思うんです。
だから出来るだけ安心しない、ということを頑張るのかなと思うんですよ。

前川 不安のままでOKということですね。

手塚 そういうことだと思います。

前川 それはやっぱり安心の方が死に近いというか。

手塚 そうなんです。

前川 不安な方が、生きているという。

手塚 死ぬことを選択するって、割と演劇的にも、人 (ひと) 的にも楽だったりするんですよ。

前川 立ち止まったら死んじゃう、じゃないけれども。
不安なものを持っているとウロウロしてしまうけれども、安心があるともうそれを置いてしまって、動く必要が無くなる。

手塚 そうですね。
例えば、台本上3ページ喋る台詞でも、3行喋った後にひょっとしたらこの人止めちゃうかも知れない、という不安な身体が居ると、僕らとしてはそこに惹きつけられる。
柄本明さんとか。一緒に芝居をした時に、あの人、長いセリフを喋りながら「途中で止めちゃうかもしれない」という身体と思考を持っていて。
僕はもう、真剣にその身体と言葉とを受け止めていないと、吹き飛ばされてしまうと思いました。
受けている僕も不安なまま受けないと不公平だし、対等な立場に居られない。

どういう身体でどういう風に居たらいいのか、何を次に見せて行くのか、やっぱりそういうことが面白い。

前川 身体とそこに流れる時間みたいなことを、ここ何日か話していますよね。

手塚 そうそうそう。
舞台に立っている役者の時計と、お客さんの時計が同じ時間になってしまわないように、その時間をどうズラすかっていう。

前川 それは、すごく大事なことで。

手塚 時間というのは呼吸ですから。
人間って哺乳類だから、呼吸がどうズレるかで、お客さんがはっとしてしまう。
息をのんでしまう。
呼吸がどうズレるかで作ってみる。それを使って面白くしていける。
僕がイキウメを面白いと思うのは、そこなんですよ。
お客さんの時間と舞台上の時間、違う時間が流れている。

前川 僕らが最近までやっていたことって、場転の速度をバンバン上げたりして、時間を編集して詰め込むっていう、時間のズラし方。
時間って、ゴソッと省略したり、それを描かないことで、ボトンっと目の前に現れたりする。

手塚 生でやっている役者の体内時間と、それを観ている人の時間がどうズレるのか。
そのズレがどう怖いのか、あるいは面白いのか、面白怖いのか、っていうのがやっぱり観たい。

前川 それですね。

手塚 舞台をお客さんが見ていること自体が、生きていることであって、お客さんの目から消えてしまうということは、もうそこで見えていることは死んでいるということ。
光や水なんかと一緒ですね。

どう産まれてくるのか、どう死んでゆくのか、「生き死に」をどう見せていくか、
そういうことを考えるとやっぱり演劇ってちょっと楽しい。
ドキドキするじゃないですか。


■・・・このあと稽古再開のお時間となりました。
お話はこの辺で終わりとなります。
この取材は『片鱗』が立ち上がったばかりの、
10月初旬に行いました。
『片鱗』は11月8日から始まります(東京公演)。

この続きを劇場で目撃し、体験したいと思います。
皆さまも是非。 (了)

@TomoMaekawa

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