■introduction
空き地。
男は打ち捨てられた自転車やゴミを退ける。
大きな石を運んできて、空き地の前面に据え置く。
紙垂(しで)の付いた注連縄(しめなわ)を持った女がそれを見ている。
男は注連縄を石に巻き付け、離れてバランスを確認する。
「なんか様になってる。ありがたい感じになったね」
これが何を意味するのか、女は訊く。
石は造園業者から安く買ってきたもの、注連縄はホームセンターで買った荒縄で作ったし、
紙垂の切り方はネットで調べた。
石にも縄にも特別な力は何もない。
だがこうすると不法投棄が減るのだという。昔ニュースで見たらしい。
ここに神様がいるわけじゃない。
こうやって偽者の神様を置いてみると、みんなそこに神様がいるってことにしてくれる。
誰かが祈り始め、いつの間にかそこには神様が、宿る。
すると誰もゴミなんて捨てなくなる。日本人は何とも信心深い。
「こうすれば完璧だろ」男は石の頭に小銭の山を載せる。
「電車の椅子を譲らない奴でさえ、誰かの祈りを邪魔しようとは思わないもんだ」
女は手を合わせた。
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